首無し騎士に襲われる 【スリーピー・ホロー 後編 - アーヴィング ワシントン 1820年】 THE LEGEND OF SLEEPY HOLLOW - Washington Irving 1820

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彼らは今まで平穏だった先生の領域を荒らし、唱歌の学校は煙突をふさいでいぶり出してしまうし、
校舎には堅固に結んだ紐や窓の心張棒があったにもかかわらず、夜なかに侵入して、なにもかもひっくりかえしてしまい、
あわれな先生は、近隣の魔法使どもがみんなで集会でもしたのかと思ったほどだった。


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■一部抜粋
しかし、もっと困ったことは、ブロムがあらゆる機会を利用して彼を恋人の面前で愚弄したことだった。

ブロムは犬を飼ってしごく滑稽に鳴くように教えこみ、それを連れこんでイカバッドが彼女に讃美歌をおしえる向うを張ったのである。


 このようにしてしばらく時がたち、二人の競争者のあいだの情勢には実質的な影響はなかった。

ある晴れた秋の午後、イカバッドは、もの思いにふけりながら、いつも彼が教室のなかのできごとを見張るときに腰かける高い椅子に王様のようにどっかと坐りこんでいた。

その手に彼は専制君主の力を示す笏というべき鞭をふりかざしていた。

正義の鞭は王座の背後の三本の釘にかけてあり、悪事をはたらくものを絶えず脅やかしていた。

一方、彼の前の机の上にはさまざまな禁制品や御法度の武器が、なまけものの腕白小僧からとりあげられて置いてあった。

かじりかけの林檎や、豆鉄砲やら、独楽、蠅とり籠、そのほか跳ねあがる紙の鶏がたくさんあった。

見たところ、つい先刻おそろしい刑罰が加えられたばかりらしく、生徒はみな忙しそうに書物を熱心に見ているか、さもなければ、片眼で先生のほうを見ながら、たくみに本のかげにかくれてこそこそ内緒話をしている。

教室全体がしんとしているのに、ひそかにぶつぶついう声がみなぎっているのだ。

ところが突然その静粛を破って、黒人がひとり闖入してきた。

麻屑製の上衣とズボンを着て、マーキュリーの帽子のような、ふちのない丸い帽子をかぶり、手入れも調教も碌にしてない暴れ小馬にまたがって、手綱もつけず、一本の綱であやつっていた。

彼は学校の入口まで駈けこみ、イカバッドに、宴会か「縫物仕事の会。」
といったものが今晩ヴァン・タッセルさんのところで催されるから、それに出席するように、と招待の辞を述べた。

黒人というものは、こういった類いのつまらぬ使いに行くと、とかく偉そうな振りをして、気取った言葉を使うものだが、この男もその例にもれなかった。

彼は口上を述べてしまうと、いかにも彼の使いが重大で急ぎのことであるかのように、小川を駈けわたり、窪地を疾走してゆくのが見えた。


 今まで静かだった学校は、いまやがやがや大騒ぎになった。

生徒の授業は急いでどんどん進み、些細なことにはかまわなかった。

すばしこい子供は半分ぐらい飛ばしても叱られず、のろまの子供はときおり尻をひどくたたいて急がされ、むずかしい言葉をしゃにむに読まされた。

本は書棚にしまわずに投げだすし、インキ壺はひっくりかえる。

椅子は投げたおすやらで、学校はふだんよりも一時間も早く退けた。

子供たちは小鬼の群のようにわっと飛びだし、野原で喚いたり騒いだりして、早く解放されたのを喜んだ。


 色男のイカバッドは少くとも三十分も余計にかけて化粧した。

いちばん上等な黒の洋服、といっても、じつは色のあせた一帳羅だったが、それにブラッシをかけ、若がえらせ、学校にさがっていた壊れた鏡のかけらでかみの毛をなでつけた。

正真正銘の騎士らしいいでたちで恋人に目通りするために、彼はそのとき泊っていたハンス・ヴァン・リッパーという年寄りの怒りっぽいオランダ人の農夫から馬を借り、威風堂々とそれにまたがり、冒険をもとめて旅立つ武者修行者よろしくのていで、駈けだした。

ところで、わたしは当然、伝奇物語の真精神に従って、ここでこの主人公とその乗馬の風采いでたちについて少々述べなければなるまい。

彼のまたがった馬はよぼよぼの犂き馬で、年をとりすぎて、残っているものといったら、意地の悪い性質ぐらいしかなかった。

やせて、毛なみはばさばさで、首は細くて醜く、頭は槌のような形だし、色のさめたたてがみや尾はもつれたうえに、いがなどがくっついて、くくれていた。

片眼は瞳がなくなり、化け物のようにぎょろぎょろ光り、もう一方はまさしく悪魔のような光をおびていた。

だが、この馬も、その名をガンパウダー(火薬)というのである以上は、若かった頃には熱と勇気をもっていたにちがいない。

じじつ、この馬はかつては例の怒りっぽいヴァン・リッパーという主人の愛馬だったのだ。

ところが、この主人は狂暴な乗り手だったから、おそらく自分の性質をいくぶん馬に注ぎこんだにちがいない。

老いさらばえてやつれたりといっても、この馬には魔性がひそんでおり、その点では、この付近の若い馬などは及びもつかなかったのである。


 イカバッドはそのような馬には誂えむきの男だった。

鐙が短かったので、両膝が鞍の前輪にとどくほど高くあがった。

彼の尖った肱はばったの足のように突きだし、鞭はその手に真直ぐに立て、笏をもつような恰好だった。

馬がからだを揺りながらのそのそ歩いてゆくと、彼の腕は、鳥が翼をばたばた羽ばたくように動いた。

小さな毛織りの帽子は額があまり狭いので鼻の上に乗っているように見えた。

そして、黒い上衣の裾はぱたぱたして、馬の尻尾にとどきそうだった。

そのような恰好でイカバッドと彼の馬とは、ハンス・ヴァン・リッパーの家の門をよろめき出ていったのである。

まったくもって、とうてい昼の日なかに出くわすようなしろものではなかった。


 先ほど言ったように、その日は晴れた秋日和だった。

空はすきとおってうららかで、自然界はゆたかな金色の衣をつけ、豊穣な実りを思わせるのだった。

森は渋い茶色と黄色につつまれ、優美な木々は霜にうたれて、ちらほらと輝かしいオレンジ色や、紫色や、また真紅にそまっていた。

鴨は列をつくって空高く飛びはじめ、栗鼠の鳴く声が山毛欅や胡桃の林から聞えてくるし、鶉の笛を吹くようなさびしい声もときおり近くの麦の刈株の残った畑から聞えてきた。


 小鳥たちは別れの宴をはっていた。

饗宴もたけなわと見えて、羽ばたいたり、さえずったり、ふざけたりして、茂みから茂みへ、木から木へと飛びまわり、周囲の色とりどりの豊富なご馳走を思うままについばんでいた。

正直ものの駒鳥がいた。

これは子供の狩猟家の好む鳥で、声高に愚痴をこぼしているような鳴き声だ。

黒鳥はさえずりながら黒雲のようにむらがって飛んでいる。

金色の翼の啄木鳥は紅のとさかと、幅のひろい黒い喉当てと、すばらしい羽毛をつけている。

連雀は、翼の先が赤く、尾羽の先は黄色く、羽毛は小さな鳥打ち帽のようだ。

それから、かけす。

やかましいしゃれものだ。

派手な空色の上衣を着こんで、白い下着をつけ、叫び、喋べり、お辞儀をし、ぴょいと跳ね、頭を下げ、森の歌い手たちみんなと仲のよいような振りをしている。


 イカバッドはゆっくり進んでいったが、その眼は、御馳走のたねを見のがすようなことは決してないので、嬉しくなってこの楽しい秋の宝を見わたした。

どこを見ても林檎があふれるほどだった。

木の枝も折れるばかりに垂れさがっているかと思うと、集められて籠や樽に入れられ市場へ送りだすようになっていたり、また、うずたかく積みあげられて林檎汁しぼり機にかけるようになっているものもある。

さらに先へ進むと、玉蜀黍の大きな畠には、黄金色の実が葉のような包みからそとをのぞいていて、菓子やプディングがたくさんできそうだ。

その下には黄色い南瓜がごろごろして、美しい丸い腹を太陽に向け、最上等のパイがいくらでもつくれそうである。

やがて彼が馥郁とかおる麦畑に通りかかり、蜂蜜の香を吸いこみながら見わたすと、うっとりするような期待が彼の心に忍びこんで、うまいホットケーキにバタをたっぷりつけ、蜂蜜か糖蜜をたらしたのを食べるときのことを考えた。

しかも、これをつくるのは、カトリーナ・ヴァン・タッセルのやさしい、かわいい、ぽちゃぽちゃした手だ。


 こんなふうに、いろいろな快い思いや、「甘い空想。」
に胸をいっぱいにしながら、彼は山なみの斜面を進んでいった。

そこからは、壮大なハドソン河の絶景が望まれるのである。

太陽は次第に丸く大きくなって、西のほうにまわってきた。

タッパン・ジーの広い水面はじっと鏡のようで、ただところどころに静かな波がおこって、遠くの山の青い影をながくのばしていた。

琥珀色の雲が二つ三つ空にうかび、風はそよりともせず、雲は動かなかった。

地平線は金色に光っていたが、やがてすっきりしたうす緑色になり、それからさらに頭上の空を染める様な濃紺に変っていった。

斜めになった陽の光は、河岸のあちこちにそば立つ断崖のいただきの木立のあたりにためらい、岩壁の濃い鼠色と紫色とをいっそう深くきわだたせていた。

小船が一艘はるか遠くにただよって、潮の流れにまかせてゆっくりと河を下り、帆は垂れて帆柱にかかっていた。

空が静かな水に映えて光っているので、その船はまるで空中に浮んでいるように見えた。


 夕闇が迫るころ、イカバッドはヴァン・タッセルの城に到着した。

すでに近隣の才子佳人が大ぜい集っていた。

年とった農夫たちは、鞣皮のような痩せた顔をして、ホームスパンの上衣とズボンを着て、青い靴下に、大きな靴をはき、仰山な白鑞の締め金をつけていた。

元気はいいが、もう萎びてしまった彼らの女房たちは、ひだのついた帽子をかぶり、胴の長いガウンを着て、手製の下衣をつけ、鋏や、針さしやら、派手なキャラコの袋を外側にたらしていた。

かわいげな乙女たちも、母親同様古風な身なりではあったが、麦藁帽子をかぶり、きれいなリボンをつけ、あるいはまた白いドレスを着ているあたりは、都会の最新流行のあらわれであった。

息子たちは、裾を四角に切った短い上衣を着て、ぎょうぎょうしい真鍮のボタンをいく列も並べ、かみの毛はだいたい当時の流行にしたがって弁髪にむすんでいたが、特にそのために鰻の皮を手に入れることができればなおのことであった。

鰻の皮はかみの毛にたいへん栄養になる強壮剤だと国じゅうだれでも考えていたのである。


 ところで、ブロム・ボーンズはこの場の大立者だった。

彼はこの集りに来るのに、デアデヴィル(命知らず)という愛馬に乗ってきたが、この馬は彼に似て、元気はいいし、悪戯好きで、彼でなければ御すことはできなかった。

じっさい、ブロムは、悪いことばかりする駻馬に好んで乗るので評判が高かった。

騎手がいつでも首の骨を折る心配をしなければならないような馬が好きで、柔順でよく訓練された馬なぞは、血気盛んな若者には価値がないと考えていたのである。



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